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仙台家庭裁判所 昭和55年(少)1661号 決定

少年 N・R(昭三六・六・二〇生)

主文

少年を中等少年院(一般短期)に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、A、B、Cと共謀のうえ、○○ことD(一九五四年一二月一〇日生)から金品を強取しようと企て、昭和五五年七月二九日午前〇時三〇分ころ、少年は背広姿で、他の三名は覆面をして、仙台市○○町×番×号カーサ○○○×××号のD方居室に赴き、少年において「下の駐車場でお宅の車のうしろをこすつてしまつた。」などとDに申し向けて扉を開けさせ、Aら3名が、やにわに同室内に入り込んでDを押し倒し、所携のガムテープでその目及び口をふさぎ、両手を後手に緊縛したうえ、腹部、胸部等を殴る蹴るの暴行を加え、Bが所携の模造刀をDの首筋に押し当て、少年がAの指示により「金を出せ、騒いだら命がないぞ。」などと語気鋭く申し向け、さらにAが「おんどりやぶつ殺すぞ。」などと怒鳴りつけて脅迫し、Dの反抗を抑圧したうえ、同人着用の腕時計一個(時価約一四万円相当)、同マンションの駐車場に駐車中のDの普通乗用自動車内から同人所有の現金一六万円、Dが少年らの要求によつて借り受けた現金一〇〇万円、同居室内にあつた同人所有の現金二〇〇円位及びライター一個(時価約一〇万円相当)並びにE所有の現金六万円位を強取し、その際、右暴行によりDに対し加療約一ヵ月を要する左第一〇及び第一一肋骨亀裂骨折等の傷害を負わせたものである。

(法令の適用)

刑法六〇条、二四〇条前段

(処遇の理由)

少年は、高校を二年で退学し、喫茶店勤めなどをしていたが、昭和五四年六月無免許運転等の交通事件により保護観察に付され、その後数回の転職が見られたものの、昭和五五年三月から、結婚を約したF子方に同居し、同年四月以降は臨時工として稼働していたものであるが、同年七月一九日たまたま高校一年当時の同級生であつたBと会い、やくざ風のAを紹介され、Cをまじえた席でAから、兄貴分の縄張りを荒している者をやつつけに行き、成功したら一〇万円やるなどと言われて、これを了承したことが発端となつて、本件犯行に至つたものである。同月二四日Aから具体的な犯行計画を聞かされ、これが極めて危険な内容であり、犯行当日までに共犯者から離脱する手だてがなかつたわけではないのに、Aの勢威に恐れを抱いていたとはいえ、実行行為に及び、分け前として一〇万円を受領している少年の責任は重く、本件犯行の態様、結果、罪質、社会に与えた衝撃、少年の年齢等をも考え合わせると検察官送致とすることも考えられないわけではない。

しかしながら、本件の首謀者は何といつてもAないしBであつて、少年及びCは追随的であり、本罪の法定刑にも考えを及ぼすと刑事処分とすることはやや過酷という感を免れず、また少年には前記のとおり交通事件による保護観察のほかは保護処分歴がないこと、少年の生活歴、保護環境等に鑑みても、少年に対しては保護処分をもつて臨むのが相当である。

そして、本件が保護観察中の再犯であること、少年の責任や非行性の程度等を考慮すれば、この際は、少年を中等少年院に送致すべきものと判断される。ついで、少年院における処遇についてであるが、鑑別結果に徴すると、少年には暴力的行為に対する許容水準の甘さが見られるものの、本件犯行に相応した性格の偏りを持つておらず、本件は一般非行が見られない少年の生活史上機会的な出来事であつたことが認められること、とはいえ少年の従前の生活態度には自律性の欠如等問題点が指摘されるが、これとても少年が現在顕著な反省の態度を示し、更生の意欲も固いこと等に照らせば、その改善にさほどの期間を要しないと思われること、比較的短期間の収容でも責任の明確化は図れると考えられること、共犯者Cとの処遇の均衡(同少年に対しては、在宅処遇という鑑別判定を考慮し、一般短期処遇を付した。)等の事情を斟酌すると、特に一般短期処遇に付するのが相当と認めるので、この旨勧告する。

そこで、少年法二四条一項三号、少年院法二条三項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 八木正一)

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